第5回世界選手権2002 ワールド大会のレポート  白子良明

文 白子良明(日本視覚障害者セーリング協会 会長)

20日に「ミラノ」入りして翌21日に「ガルーダ湖」湖畔の田舎町「ガルニャーノ」に着きました。こちらに来てから4日目まで、連日、雨に降られていました。

レースの行われる「ガルーダ湖」周辺は700?800年位前からの小さな街が点在し、ほとんどの家が石造りです。家や庭は花々に彩られ、とても美しく歴史を感じさせる街並みです。いたる所にオープンテラス付きのBar(カフェテリア)があり、現地の人々は、のんびりと時間を過ごしています。ワインや食事もとても美味しく「このまま、ここに住み着いてもいいな」と思ってしまうとても雰囲気の良い所です。

今大会は、12の国と地域からB1・B2・B3合わせて26チームがエントリーしています。各クラスにフルエントリーしているのは、我がTeam Japanを合わせ6の国と地域で、この中の国と地域が、「スクォードロンカップ」を争うことになります。

レースに使用される艇は、B1・B2クラス「プロタゴニスト750」B3クラス「ドルフィン81MR」という何れも「ファー・プラトゥ25」に良く似たイタリア製のレーシングボートです。

23日?25日までのフラクティスレースは、キャビン内の整理、艤装、強風による出港停止などで、実質1日程しか練習出来ませんでした。

23日の練習で「Team JapanB1チーム」は、「テキサスB2チーム」としばらく併走していたのですが、圧倒的に「Team JapanB1チーム」の方が速かったです。他のチームも調子を上げてくるとは思いますが、ある程度の手応えを感じる事ができました。

27日のレース初日は、降り続いていた雨も止んで久しぶりの晴天となり、絶好のセーリング日和になりました。風も凪いだのですが、ガルーダ湖特有の風なのか強風が吹いたり止まったりで、選手達は、苦労しているようです。

Team Japanのレース成績は、各クラスとも今一つ良くありません。B3チームが1日目のレースで1位、3位に入ったのですが、その後奮いません。詳しいレース状況は、コーチと選手のレポートに譲ります。

今回初めてワールドを観戦したのですが、上位チームのセーリングレベルの高さにショックを受けてしまいました。彼らは、常に安定したセーリングをしています。上位チームとの実力差を改めて実感する大会となってしまいました。

特に感じたのは、

1.スタートの上手さ
 上位チームは、ポジション取りが上手で、トップスピードでジャストスタートして行きます。
2.マーク回航など他艇と接近した状況での戦闘的なセーリング
 やや強引とも思える権利主張で、マークに突っ込んでゆきます。
3.ブラインド選手の動きの良さ
 B1選手でもタック、ジャイブ時は俊敏に動き、乗り位置もヒール角度や前後のバランスを考え変えている。入出港時やセールアップ・ダウン時も、シートを引いたり、セールを片付けたり等、サイテッドと一緒に仕事をしているのが印象的でした。
4.安定したセーリング
 3にも共通しますが、タック、ジャイブ後には、ほとんどコースがブレません。1度コースが決まると上り過ぎ、落とし過ぎという事が、ほとんどなく一定のヒール角度を保ちながら真っ直ぐ走っています。
5.体格差
 大きい人が多く強風時は圧倒的に早い。微風時は不利かと思うのだが、何故か早い。
6.俊敏なレースボートへの対応
レースに使用された「プロタゴニスト750」「ドルフィン81MR」は、何れも幅広でフリーボードが低い軽量・軽喫水のレーシングボートです。普段練習で使用している「J24」や「ヤマハ23」とは全くタイプの異なる艇だったので、日本選手達は、慣れるのに苦労していたようです。
しかし、ブラインド達選手は、幅広なのでタックの移動が大変ではあるが、彼らの大敵であるブーム位置が高く、ヘルムも素直で敏感、セーリングスピードも早く、とても乗り易い楽しい艇だと言っていました。
今後、ヨットレース界の主流を占めて行くと思われるレーシングタイプ艇への対応が必要でしょう。

今大会のレースにより、勝利するための課題が明らかになったように思います。今後、日本でのトレーニング内容・選手強化策を再検討し、次回のワールドに望みたいと思います。

成績は奮いませんでしたが、もう一つの目的である国際交流の面では、皆さん片言の英語、イタリア語で各国選手団や地元の人々と楽しいひと時を過ごしていたようです。その点では、100点満点です。

表彰式後のパーティー恒例のユニフォーム交換では、当協会会員の吉田倫子デザインによる発砲インクで点字をあしらったサブユニフォームが大好評でした。特にイタリア国旗のイメージで配色した「ガルーダ湖」を描いたトレーナーを主催者の「Circolo Vela Gargnano」にプレゼントした所、担当者は、直営のマリンショップに額縁に入れて展示してくれると言っていました。

パーティー後は、ノーザンアイルランド、グレートブリテンの人達と近くのBarに飲みに行き、大いに盛り上がりました。「デンジャラスゲーム」という一気飲みゲームに参加し、酩酊状態になって「ガルーダ湖」にスーツを着たまま転落し、着衣水泳訓練をしている人(実は私なのですが・・・) もいました。

主催者の「Circolo Vela Gargnano」人々は、ラテン系のいい加減というイメージとは異なり、きちんとした仕事内容で、大会運営もスムーズに行われました。

また、地元の人々も、皆さん大変親切で温かく、普段、海外旅行などに行く機会の少ないブラインド選手達にとって貴重な体験になったと思います。Team Japan全員の心に温かいものが残ったとても良い大会でした。

次回のワールド大会は、クラス入賞と「スクォードロンカップ」の奪取を目標に頑張りましょう。最後に、この遠征にあたりご支援、ご声援をいただいた皆様、どうも有難うございました。心より感謝申し上げます。