東京レポート 11月18日
文 鈴木克己(JBSA東京)
TYC海ほたるレース
日時 2007年11月18日
集合 7時、艇長会議7時30分、レース開始9時、海ほたる回航タイムリミット13時
天候 晴れ、気温14度
風 午前東北 3?5、午後西南西 12?15(瞬間風速18.7)
使用艇 スパークリング(児玉さん所有艇)
参加者6名(敬称略)
サイテット 児玉、佐藤、橋本、二瓶、
ブラインド 安達、鈴木
今日は、今年最後のTYCレース、早朝からアトリュームには気合がみなぎっている。
予定の7時30分に艇長会議が開かれ、「本日は往復20哩のコース、天候の変化にも気を配り途中リタイヤの決断も視野に入れて安全確保でレースに望んで欲しい」との注意が促された。
水域に着くと間もなく予告信号が出され、参加20数艇が入り乱れて一斉にスタートした。
暫らくするとスターボード組とポート組がそれぞれに集団となって左右に別れて行った。目標は海ほたるの東側の東京湾横断橋をくぐり200ほど先の回航ブイ。途中どこで本船航路を横切り、大型船に出会えばどのように交わすか。風と潮と波を読んで思い思いの方向に分かれて行く。その中からうまく風を掴んだ組が先頭集団となって抜けでる。これまでの全艇が一斉に上マークを目指して狭いところでの先陣争いをするレースとは異なり雄大で興味深かった。
スタートから2時間もしないうちにレース艇は左右2ほどに広がっているようだ。遥か先に海ほたるの横断橋が見え出した。
11時を回ったころシーボニアにいた坂本さんから電話があり「こちらは西風が強く湾内でもドン吹きだ、東京湾は大丈夫か」と知らせてきた。そのあと東京湾でも風向きが振れ始める。
12時15分を過ぎたころには西風に変わりうねりが入り白波が飛び始める。艇はいつもよりヒールし始める。ティラーは児玉さんが持っていたがかなり重そうだ。メインシートを出すと、引き戻せなくなる。
本部艇らしい船が全速力で追い越して行った。「コース短縮のようだね」と誰かの声。
「嵐みたいだけれど、風速はどのくらいですかね、まだ強まるでしょうか?」
「平均12?3、瞬間で18くらいかな。回航マークまで2?30分で行けるだろう。橋を超えたところまでだ、皆頑張ろう」
われわれより3?400前方を行く2艇も頑張っている様子が伺える。
そのとき大波が来てデッキにいた私は背中から水をかぶってしまった。「ヒャー!」。
海ほたるの横断橋は目の前にあった。私は橋をくぐるところを実感したかった。しかし激しい揺れと衣服を拭きたくタオルを取りにキャビンに入った。キャビンの中は荷物が散乱し揺れるたびに右へ左へと転げ回っている。そこで先ずは自分の体を確保しながら荷物を片付けはじめた。荷物が転がらないようにするには床面に横一列にバッグ類を並べ互いに荷物同士が揺れを支えあうようにした。また小物や軽いものはマットを被せるようにして保持させた。
風の中をデッキでは何をしているのだろう、誰かの靴音があわただしくキャビンまで伝わってくる。
そこへ児玉さんがキャビンに降りてきて「スパクラはリタイヤします」と電話をかけた。「リタイヤですか?」、12時48分だった。海は相変わらず突風が吹き、スパクラは激しく波にもまれている。ここはどのあたりだろうか。艇はどちらへ向うのだろう。風は治まりかけているのだろうか。頭の中にさまざまな質問が浮かんでは消えていく。
私も後についてコックピットにでる。
橋の下まで行ったが危険なのでリタイヤを決断したとのことだった。現在艇は、ジブを巻取り、メインセールで夢の島に向かっていた。風はまだ強く、時折波頭を飛ばしてデッキにたたきつけてくる。左前方にセールを揚げて夢の島に戻る艇があるというのでなぜか心強く思えた。他の艇はどうしたのだろうか。
それから1時間ほど過ぎたころには風が次第に治まる気配を見せはじめていた。この風は11時ころ坂本さんが電話で伝えてきたように相模湾のドン吹きが東京湾にまでやってきたようだ。帰宅後テレビで関東地方に木枯らし一号が吹きまくり瞬間風速18.7だったことを知った。
風が治まるのに連れて緊張も解け、笑顔で互いの拳闘を喜びながら無事マリーナに戻ってきた。
ブラインドにとっては長距離レースの緊張感、強風の恐ろしさを感じながらのセーリング体験、自然の力と人間の非力さを充分味わうことのできた一日だった。
スパクラを出してくださった児玉さん、強風の中で私たちの安全に気を配りながらヘルムスを勤めていただきお疲れさまでした。佐藤さん、二瓶さん、橋本さん危険なデッキで連携作業の手際よさを勉強させていただきました。本当にありがとうございました。